【肩関節周囲炎】50肩の病期に応じた対症療法と原因療法とは?

五十肩の効果的な治療方法

50肩という言葉の解説と発症する原因、症状進行の大まかな流れについてのブログ記事『五十肩の原因・症状・治し方 ①五十肩とは』に続きまして、今回は具体的に50肩はどうすれば治るのか?についての解説です。

病院に行っても50肩が治らない!!一向に改善しない!!これには明確な理由があります。

現在、通院中の方はもちろん病院での受診をお考えのみなさん、いま、あなたが困っていたり悩んでいるのは、誤った情報と思い込みのせいかもしれません。

悩み・迷いをなくすには、あなた自身が、なるほど!と納得できる情報です。

何が正しくて何が間違っているのか、あなたが正しいと思った情報が正しいのです。

【目次】

40肩・50肩と気軽に言ってしまいますが、実は奥が深いのです

40代-50代で「肩を動かすと痛い」「何もしていなくても肩が痛い」「肩が痛すぎて眠れない」「痛くて腕が上がらない」といった症状がすべて40肩・50肩というのが一般的な認識でしょう。

ですが実際は、そうではないケースも多いのです。

厳密には50肩(40肩)とは骨自体でなく関節包・肩関節の周囲の筋肉に原因があるものを指します

医学専門用語では「五十肩(=凍結肩=癒着性関節包炎)とは関節包の肥厚・短縮・硬化を主病態とし、肩痛・可動域制限を主訴とする疾患」となっています。

肩関節周囲炎は名前のとおり関節のトラブル!!実は年齢には関係ない

中高年に限定すれば5人に1人が何かしらの肩の痛みがあると言われています。40肩・50肩は年老いた証というのが一般的な認識かもしれませんが20代・30代でも発症します。つまり「自分はまだ30代前半だし、40肩のわけがない!」と思いこみ、ほっとけば治るという認識は危険です。

痛みを我慢すれば腕を動かすことはできるような肩痛もあれば、腕が全然動かせない肩痛もあります。肩こりも五十肩も痛いという共通点があり、肩こりによる痛みと混同されがちですが、コリによる痛みは筋肉の痛み、筋肉痛です。

50肩の根本的な問題は【肩の関節】です。もちろん筋肉も含みますが、問題の核心は関節なのです。

50肩によって周辺の筋肉に影響は出ますので、どうしても混同されがちですが「肩こり」と「50肩」は全くの別物です。

肩関節の痛みという症状に含まれているのが50肩であり、肩の関節が痛いからといって、それは50肩とは限らないのです。

肩が痛い!まさか五十肩?・・・判別する方法

 

50肩と【診断】できるのは医師のみです。

整形外科にてX線、MRI、超音波などを使った検査を行った上で、腱版断裂、腱板炎、石灰性腱炎、上腕二頭筋長頭腱炎といった明らかな疾患がない場合、【肩関節周囲炎】です、いわゆる50肩ですね、という診断がなされます。

大切なことなので繰り返しますが、明らかな疾患がない場合が「肩関節周囲炎」なのです。

「えっ?なにそれ、どういうこと?」って驚かれたかもしれません。

明らかな疾患がなければ五十肩??

そんないい加減なもの?アバウトすぎない?と思われるかもしれません。医療機関で、原因不明で確実な改善方法がないという診断が「50肩」なのです。

肩関節の様々な問題は、まだまだ研究段階にあるものが多く、医療機関で「様子をみましょう」と言わざるをえないのです。これは医療機関が悪いわけではありません。保険制度・医療制度上仕方のないことなのです。発言・診断に責任が伴う以上、仕方のないことなのです。

これより40肩・50肩を【肩関節周囲炎】という名称に統一して解説していきます。

【肩関節周囲炎】は20代・30代でも発症する

若年層の首や肩への負担はスマートフォン・パソコンなどの普及により増大しています。ストレートネック・巻き肩は10代にも広がっています。

【肩関節周囲炎】の原因は解明されていないことが多いのですが、加齢による筋肉や関節の変性と血液循環の悪化が主な原因でされています。

明確なことは申し上げられませんが、首や肩への負担が【肩関節周囲炎】と関係ないと言い切ることは誰もできないと思います。

年齢をとれば体にガタがくるのは仕方ないと誰もがお思いでしょう。

ですが、安心してください。

【肩関節周囲炎】は関節の老化が全てではありません!!

事実、20代・30代でも【肩関節周囲炎】は発症します。

ただ、40代〜は運動不足・筋肉量の低下・食事の変化といった影響により発症しやすいだけです。

若くても肩関節周囲炎は発症してしまう、つまり加齢による不可抗力的な症状ではない、ということをご理解ください。

【肩関節周囲炎】は人によって進行具合が異なります。

大切なのは今現在の肩の状態を正確に把握する必要があります。

【肩関節周囲炎】は時間と共に症状が変化する


【肩関節周囲炎】は経過と共に症状が変化するという特徴があります。

  1. 急性期

    炎症期ともいいます。疼痛が主体で可動域制限が進行する(6週~9ヶ月)

  2. 拘縮期

    可動域制限が著しく進行する(4~6ヶ月)

  3. 回復期

    疼痛・可動域制限ともに軽快する(6カ月~2年)

【肩関節周囲炎】は、一般的に3つの病期に分かれます。いつのまにか痛みが治まってきたと感じるのは回復期にあたります。

【肩関節周囲炎】への適切な対処には、最低限この3つの病期に応じた処置を行う必要があります。3つに分類にはなっていますが、実際は、急性期→拘縮期、拘縮期→回復期への移行時期も存在します。

肩こりラボでは拘縮期は前期・後期に分けて考えており、移行期ふくめて6つの期間+急性期の前段階も合わせて7つの期間に分けています。

この分け方は、当院独自の分け方です。

なぜ【肩関節周囲炎】を病院は治してくれないのか?

肩の痛みは命に関わるものでもないですし、肩こり同様、年齢のせいにされがちで軽視されています。さらに厄介なことに、放っておけばいつかは痛み自体は治まるため、とりあえずの対症療法で様子をみましょう、というのが一般的な対応です。

病院で治らないのは、保険適用できる範囲内で対応できる術がないためです。それがあれば、全国どこの整形外科でも対応でき、少なくともなぜ治らない?と悩む人は減ります。

ですが、現在医学的に原因不明とされている【肩関節周囲炎】の痛みを解明するために世界中で研究が進んでいます!

「五十肩は放っておけば治るんでしょ?」という疑問にお答えします。

病期についての説明で「回復期」という言葉にピンときた方、この回復期が五十肩は自然に治るものとされている定説のポイントです。

【肩関節周囲炎】は、肩に違和感を感じはじめ、やがて激しく痛みが出る→痛みが少し落ち着くが肩が動かなくなる→痛みがおさまり肩が動くようになるという流れを辿ります。

注意していただきたいのは、このように「痛み」にフォーカスすれば、たしかに自然とおさまります。痛みが治まる=【肩関節周囲炎】が治った、ではないのです。

この痛みをなんとか誤魔化し時間が経つのを待つ=様子を見る、というのは、今現在つらい思いをされている方が望んでいることではないはずです。

自然と痛みがおさまっても、残念ながら以前のようには肩は動かなくなります。

適切な処置をせずに【肩関節周囲炎】を放置して自然と痛みを感じなくなるケースでは、ほぼ確実に肩関節の可動域制限が生じます。痛みは引いたけれども、元のようにスムーズに動かない、肩を真上にピっと垂直にあげることができない、腕が耳につかない、といった状態です。

日常生活において、両腕を真横に広げることができれば(肩が90度まで動けば)、肘を使って様々な動作はなんとかこなせます。ですから意識されていない方もいらっしゃるはずです。

例えば、思い切り万歳!できなくても、小ぶりな万歳はできます。このように生活にはさほど困りません。ですが、腕を使う職人さんやゴルフをはじめとしたスポーツを趣味とされている方にとっては相当なダメージです。これを年齢のせいと一言で片付けてしまうことは簡単です。

【肩関節周囲炎】を放置すると可動域が制限される理由

なぜ、動かすことのできる範囲が制限されてしまうのでしょう?

人は痛みがあると無意識にかばってしまいます。【肩関節周囲炎】の場合、その痛みをかばうために長期間にわたって肩関節を動かさないようにしてしまうのです。関節を長い間動かさないでいると固まってしまいます。これを専門用語で「関節拘縮かんせつこうしゅく」といいます。関節拘縮かんせつこうしゅくは「関節包かんせつほうの癒着が生じてしまう」状態を指します。

関節包かんせつほうに問題が残るだけでなく、筋肉にも悪影響が出ます。肩を長期間動かさないことで、インナーマッスルなど動かすために重要な筋肉が衰えるのです。

いつも使っていた筋肉を使わなくなれば当然筋力は衰えと思われることでしょう。

ここに多くの方が誤解されているポイントがあります。筋肉を鍛えれば元に戻るというわけではないのです。

筋肉を正しく動かす能力自体が衰えてしまう

筋肉を長期間動かさないことで、筋力だけでなく筋肉を正しく動かす能力自体が衰えてしまいます。

筋肉=力、という筋力のイメージをお持ちの方がほとんどでしょう。

もちろん力も大切ですが「動かし方」これがとても重要です。

筋肉を正しく動かす能力は、普段は意識することがありません。

身についてしまっているからです。

一度身についていたものを失うということは、身につけ方を覚えていればよいのですが、これを自力でなんとかするのは難しいことなのです。

たとえば、長い間車椅子生活を余儀なくされ、長い間歩くことがなければ、リハビリが大変なことになるのは想像に難くないでしょう。【肩関節周囲炎】の場合も同じなのです。長い間動かさないと、動かし方を再度身に付ける・正常に戻すためには専門家の指導が絶対に必要です。

可動域が制限されてしまうのは、長期間肩関節を動かさないようにすることで、筋力が衰えるだけでなく、筋肉の使い方を忘れてしまうためです。筋力自体は元に戻すことはできても、筋肉の使い方を再習得するのは自力では困難です。

【肩関節周囲炎】を諦めないでほしい!

痛いから動かせない肩関節痛と【肩関節周囲炎】は厳密には異なる疾患です。

痛みが治まっても、以前のように動かせなくなるのが【肩関節周囲炎】。痛みさえ治まれば問題なく動かせるのは【肩関節周囲炎】ではございません。自己判断で【肩関節周囲炎】だと思いこんでいらっしゃる方の内、実際は違う肩関節痛であるケースは多いと思われます。

とにかく痛みだけ抑えるのは絶対に必要な対症療法

なにはともあれ痛みだけでもなんとかしたい、これは苦しんでいる方にとって一番の願いです。とりあえず痛みだけおさまってくれればそれでいいと思われる気持ちはよくわかりますが、痛みを抑えることが全てではありません。クスリや注射には当然のことながら副作用もあります。四十肩・五十肩が根本的に改善するというのは、腕や肩が発症以前のように動かせる状態になるということです。

その具体的な方法については以下で解説いたします。

【肩関節周囲炎】への効果的なアプローチ方法

 

肩関節周囲炎は、病期に応じた対症療法と原因療法が必要です。当院では病期を7つに分類していますが、整形外科的基本となっている急性期・拘縮期・回復期の3つの病期において何をすべきなのかをご説明します。

アメリカの理学療法ガイドラインでは4つに分けられています。

 

急性期(6週~9ヶ月)

五十肩を患っていらっしゃる方にとって、最もつらい時期がこの急性期です。動作時だけではなくじっとしていても痛みがあります。夜間痛が生じる場合も多く、痛くて眠れず鬱など精神症状へとつながっていってしまうこともあります。痛みをなんとか抑えることが望ましいのですが、実際のところ簡単には治りません。緩和はできても、ある程度の痛みは覚悟する必要があります。その痛みと向き合う時間をできるだけ短くする、つまり急性期という期間を出来るだけ短くすることが効果的なのです。

 

急性期に行うべき処置

  • 炎症の鎮静化
  • 拘縮期への早期移行
  • 痛みの緩和

実際に、急性期の五十肩に対して病院が行うのは保存療法が主です。保存療法では、手術をせず、投薬やリハビリを行います。具体的には、炎症を抑える・痛みを緩和するたことを目的とした投薬と注射になります。

どんな薬?どんな注射?・・・気になりますよね。

はい、医療機関で処方される薬と注射について解説します。

五十肩の急性期に処方される薬

非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID=Non Steroidal Anti Inflammatory Drug)の処方が医療機関での第一選択肢となります。錠剤、湿布、座薬といった患者さんに合わせたタイプで処方され、いずれも鎮痛と抗炎症作用の両方が期待できます。服用する内用薬の場合はロキソニン、湿布の場合は、モーラステープまたはロキソニンテープが多いです。これらが効かない場合、より強力なボルタレンが処方されますが座薬として処方されることが多いです。これらNSAIDの処方で痛みが治らず生活に支障をきたす場合は、もう一段階強力なトラムセットが処方されます。トラムセットは強力な鎮痛作用がありますが、トラムセットに含まれているアセトアミノフェンによる抗炎症作用は弱めです。

NSAID・トラムセットは処方される薬で市販薬ではございません。五十肩などに効くとされる市販薬については別記事で解説しました。

【検証】薬で五十肩・四十肩はよくなるの?五十肩に効くとされるクスリの効果と意味を解説

注射が鎮痛にはもっとも効果あり

目的を「痛み緩和」に限定した場合、最も効果的な手段です。整形外科、または麻酔科(ペインクリニック)にて受けることができ、ヒアルロン酸注射とステロイド注射の2種類が一般的です。

ヒアルロン酸注射

ヒアルロン酸のもつ抗炎症作用及び鎮痛作用により痛みの緩和が期待できます。さらに腱の癒着防止作用、関節拘縮抑制作用も期待できるため、整形外科では1週間に一度、連続5回ヒアルロン酸を注射するのが一般的です。ヒアルロン酸を飲食物として経口的摂取しても上記の効果はなく、あくまでも患部に直接注入する必要があります。

ステロイド注射

炎症が強く関節に腫れがある場合はヒアルロン酸による効果が得られにくく、その場合強力な抗炎症作用があるステロイド注射が有効です。ステロイド注射は、急性期の炎症鎮静化と痛みの緩和においては最も効果が期待できる方法である。ただし何度も繰り返すと軟骨を痛めるリスクがあり、多用は危険です。ですので連続してステロイド注射をする場合は最低3ヶ月以上の間隔をおく必要があり1年に計2回までとされています。

以上が、医療機関で受ける治療になります。他にPRP療法(自己多血小板血漿療法)や運動器カテーテルといった特殊な方法もあります。テレビで紹介されたり有名人が行なったことがニュースになり知名度は高いのですが、いずれも保険が適用されません。

次に、当院で行なっている方法ご紹介します。

肩ラボの急性期の五十肩へのアプローチ方法

とにかく痛みをなんとかしてほしい!これが患者さんがもっとも望んでいることです。痛みの緩和・炎症の鎮静化はもちろん大切です。

重要なのは、できる限り「拘縮期への早期移行」を促す、これがポイントです。

拘縮期への早期移行とは、肩が動かなくなる状態になっていただくということ。肩が痛くて動かしにくい状態から、肩が全然動かない状態になるということは悪化していると感じられるはずです。ですが、この動かない状態(=拘縮期)を経ないと治りません。

ここの理解が得られないと次のステージへ進めません。

医療機関にて五十肩と診断を受けた方に対して、当院のような鍼灸・マッサージ院ができるのは「寒冷療法」「超音波療法」「鍼」「マッサージ」「運動療法」の5つです。

痛みの緩和の効果に限れば、整形外科・ペインクリニックの注射には劣ります。

五十肩に対するアプローチの本質は、状態に応じた処置方法の組み合わせ方です。つらい症状を緩和する対症療法はもちろんですが、つらい期間をできるだけ短くし、五十肩を発症する前の状態に戻すためには、適切な処置を個々に合わせて組み合わせるテクニックが必要なのです。

寒冷療法

炎症が強くて痛みが激しく、熱感や腫脹(腫れ)がある場合は、まずはアイシングにより鎮痛と炎症の鎮静化を図ります。

超音波療法

超音波で炎症部位に極微細な刺激を与えることで、細胞の反応を喚起して治癒を促進させます。1秒間に100万回(1MHz)/300万回(3MHz)の高速度ミクロマッサージが可能なUST-770(伊藤超短波株式会社)を使用します。

鍼とマッサージ

鍼を打つことで、急性期の痛みが魔法のように治ることはありません。そして急性の炎症部位に鍼を行うことで却って炎症を助長させる可能性が高いため直接的な鍼は原則行いません。

では、どこに鍼を刺すのか?といいますと患部となる肩関節の“周囲”に刺します。

急性期は関節内部の炎症に加え、痛みに対する生体の防御反応により肩関節周囲の筋肉に過剰な緊張(スパズム)が生じています。

この過剰なスパズムによって関節部の痛みの助長や、腕や首などの周辺部位の不快感や鈍痛、気怠さなどの二次的な痛みが合併して発症しているケースがほとんどです。

さらに緊張だけでなく、痛みにより動かしたくても動かせない期間が続くため、不動により筋肉(筋線維と筋膜)の硬化が生じます。

炎症部に負担をかけずに筋緊張の緩和を図るためには、過度なストレッチや体操は避けなければいけません。

炎症部に負担をかけないために鍼・マッサージで行うことが望ましいのです。急性期における鍼・マッサージは、肩関節周囲の過剰な筋緊張の緩和と血流改善をすることで、二次的な痛みの緩和を図ることと関節拘縮の軽減が目的です。

マッサージと鍼は、個々の患者さんの感受性や具合に応じて使い分け、または組み合わせて行います。

運動療法

急性期において炎症の早期鎮静化は最優先課題です。原則痛みを我慢して動かすということは行いません。

ですが、インナーマッスル(腱板)の強化は必要です。

そのため、インナーマッスル強化のために運動療法は極めて低負荷で行います。

インナーマッスルの強化によって関節拘縮を予防して根治までの期間を縮まります。インナーマッスル(腱板)のなかでも特に棘上筋と棘下筋の強化が大切で、あくまでも痛みを自覚しない範囲で行うことが重要です。わずかな挙動においても痛みが強い場合は、炎症鎮静化を優先します。

繰り返しになりますが、痛みを我慢しての運動療法は行いません。

 

拘縮期(4~6ヶ月)

拘縮期に入ると、“何もしないでも痛い”状態からはやや解放され、主に運動療法が行われます。この拘縮期に運動療法と併行して鍼灸・マッサージを行うことがポイントです。

鍼灸・マッサージは急性期と拘縮期の移行時期に最も有効

急性期の終盤「一時の激痛は少しおさまってきたが、動かすと痛い!」という状況になります。それ以降、急速に関節の拘縮(固まって動かなくなること)が進行します。この急性期→拘縮期の移行時期に、きちんと適切な処置ができるかどうかが、とても大切なポイントなのです。鍼灸・マッサージは、この急性期と拘縮期の移行時期に行う処置として最も有効であると考えております。

関節拘縮を放置してしまいますと元通りにするのは非常に困難です。残念ながら、完全な可動域までの回復が難しくなります。拘縮期を経て回復期に移行した後の可動域を確保するためには、拘縮期における関節拘縮の程度をコントロールする必要があります。

拘縮期に入ってしまってからよりは、症状が変化する、急性期→拘縮期に移行するタイミングで“痛みの管理と関節拘縮の予防”ができることが望ましいわけです。そのための手段として鍼灸・マッサージは効果を発揮すると期待できるのです。

鍼・マッサージで痛みが緩和できる理由

鍼灸・マッサージは「筋肉をゆるめる」と「血流を増加させる」の2点に特化しています。

筋肉の緩和・血流の増加で、なぜ痛みが緩和されるのでしょうか?

人間は痛みを感じると条件反射によりその部位付近の筋緊張が高まります。肩関節は他の関節と異なり、筋肉によって支えられている割合が多いのです。肩をとりまく筋肉の状態により可動性は大きく左右されるのです。

また、肩の動きは“肩甲骨の動き+上腕骨(腕の骨)の動き”によって成り立っています。(これを肩甲上腕リズムまたはコッドマンリズムといいます)

五十肩にお悩みの方は、その痛みに対する防御と長期間肩動かさないことから、ほぼ全員に肩甲骨の硬化が生じます。具体的には肩甲胸郭関節の拘縮が生じているのです。

 

五十肩の拘縮期における鍼・マッサージの目的

  • 鎮痛と運動療法の補助
  • 肩甲骨の動きの回復
  • 筋肉の伸縮性を正常化

鍼とマッサージはこの3点において大変有効ですから、拘縮期から回復期へスムーズに移行できるのです。

 

回復期(6ヶ月〜2年)

回復期には、可動域が回復して根治にむかう時期です。ここまでくれば、肩を苦なく動かせるようになってきて、日に日に良くなってくるのが実感できます。

そこで関節可動域の拡大とスムーズな動きを目指し、積極的な可動域訓練と筋力トレーニングをメインに行います。

特にインナーマッスルの機能回復、前後左右の対になる筋力(force couple mechanism)の関係性を整えることに重点を置きます。

 

肩局所だけでなく、姿勢や日常の動きなど全身に対するアプローチも行います。

この時の鍼灸・マッサージは、可動域を高めるための補助と筋力トレーニングによって疲労した部分の回復が主な目的となります。

動かしにくさを補助して動きを円滑にする、そして二次的な痛みを予防できるという点で鍼灸・マッサージはとても有効なのです。

運動療法・リハビリの効果が出ない理由、それは肩甲骨にあります

肩の動きのうち、三分の一は肩甲骨の動きに頼るものです。気をつけの姿勢からバンザイのまでの角度を180度としたら、60度は肩甲骨が動くことによるものです。裏返せば、いわゆる肩関節(肩甲上腕関節)のみでは人体の構造上120度しか動かないのです。

五十肩、四十肩、肩甲上腕リズム、コッドマンリズム コッドマネクササイズ 出典:ameblo.jp

そのため肩甲骨がきちんと動かなければ、運動療法をしようにも、そもそもうまく動かすことができず、効果を期待できません。

リハビリにて肩を動かす運動を処方されても一向に変化がないか、動かしたくてもうまく動かない、あるいはある程度動くようになったが頭打ちとなったといった場合は、肩を動かす前段階として肩甲骨が動いていない可能性が高いです。

よって積極的に運動療法を行う拘縮期となる少し前から“肩甲骨の可動性”を確保するための鍼灸・マッサージは有効であり、併用して行うことで運動療法の効果を高めることにもつながり、結果的に根治までの期間を早めることにつながると考えられます。

五十肩、四十肩、凍結肩、按摩、マッサージ 出典:www.yogawiz.com

肩甲骨の可動性と共に重要なのが腕の骨(上腕骨)と肩甲骨を連結するいわゆる肩関節(肩甲上腕関節)を円滑に動かすために必要なことはインナーマッスルの活性化です。

インナーマッスルの「強化」ではなく「活性化」とした理由

多くの場合、筋力を高めるためにはトレーニング=筋肉に負荷をかけて縮ませることが第一選択肢となります。

しかし五十肩のように関節をあまり動かさない状態が続くと、関節だけではなく筋肉も硬くなり本来の「伸縮性」が失われてしまいます。ギュッと縮まってしまっている筋肉を、さらに負荷をかけて縮ませても効果は半減です。

筋力トレーニングの原則として、まず筋肉が適切に伸長する必要があります。伸長された筋肉が縮まる際に負荷をかけることで効果の出る適切な筋力トレーニングが可能となります。

このため、筋肉を「強化」する前段階として「活性化」が必要になります。

このような「活性化」つまり硬くなって伸縮という正しい機能を失ってしまっている筋肉を回復させるために鍼灸・マッサージは有効といえます。

筋肉の正常な伸縮性を取り戻してからトレーニングすることにより、インナーマッスルトレーニングの効果を促進することが可能と考えられます。

リハビリ・運動療法がうまくいかない問題の本質

病院・クリニックのリハビリなどでアイロン体操(=コッドマンエクササイズ=ぶん回し体操)や棒体操などのストレッチなどを行うように指導され、一生懸命行っても一向に変化が出ないことが大半かもしれません。これまで述べてきた通り五十肩においてもっと大切なことは病期と痛みの原因の把握です。運動療法の効果がない、一向に良くならない場合は、そもそも「五十肩の病期とその処置」「痛みの原因とその処置」が合致していない可能性大です。

アイロン体操↓

棒体操↓

五十肩は放っておいてもいつかは痛みがおさまることが多いため、軽視されてきました。

昔ながらの方法も「五十肩・四十肩といえば〇〇」といったような古くから伝わる伝統的な方法が、マニュアル的に行われているにすぎず、肩こり同様最終的に「年齢のせい」ということでうやむやになってしまっている・・・これが現実です。

五十肩で当院に駆け込んでいらっしゃる方に、これまでの経過を伺うと「リハビリに通ってもいつもの流れ作業の繰り替えしで、一向に改善しない」とおっしゃる方がほとんどです。

当記事で紹介した当院で行なっているような方法を実践している医療機関は・・・極めて少ないでしょう。

さきほど一般的に3つの病期があると説明しましたが、実際はその3つの期間の把握すらもされないのが普通なのです。普通の保険診療では医師の対応は数分で終わりです。これは手抜きではなく、そもそも時間がかけられないのです。時間がかけられない以上、整形外科医にとってまずは五十肩か否かが大切で、五十肩でないとわかればいろいろしてくれますが、五十肩となると詳しく検査はされません。

当院は、鍼とマッサージがメインですが、鍼自体を認めていない整形外科医・理学療法士は少なくありません。

鍼というとツボ・経路といった神秘的なもの、悪く言えば「うさんくさい」イメージです。実際のところ、そういう鍼が大半です。ですが、きちんと現代医学的根拠に基づいて行う鍼は様々な医療現場で活躍できると確信しています。実際、多くの大学病院でも鍼は取り入れられています。

 

鍼灸外来のある大学病院

  • 東京大学付属病院 麻酔科・痛みセンター
  • 東北大学病院 鍼灸外来
  • 千葉大学医学部付属病院 神経内科
  • 大阪大学生体機能補完医学講座 補完医療外来
  • 筑波技術大学 東西医学統合医療センター
  • 三重大学医学部附属病院 麻酔科(統合医療・鍼灸外来)
  • 岐阜大学医学部付属病院 東洋医学外来
  • 京都府立医科大学付属病院 麻酔科
  • 慶應大学医学部 漢方医学センター
  • 日本医科大学付属病院 東洋医学科
  • 自治医科大学附属病院 麻酔科
  • 東京慈恵会医科大学付属病院 ペインクリニック
  • 東京女子医大 東洋医学研究所クリニック
  • 東海大学医学部付属病院 東洋医学科
  • 東邦大学医療センター大橋病院 漢方外来
  • 埼玉医科大学病院 東洋医学科
  • 北里大学 東洋医学総合研究所 漢方鍼灸治療センター
  • 大阪医科大学麻酔科教室
  • 近畿大学付属病院 東洋医学研究所附属診療所(漢方診療科)
  • 明治国際医療大学附属病院
  • 福岡大学病院 東洋医学診療部

四十肩・五十肩は難易度が高い上に時間がかかります

一言で「五十肩」といっても、本当の意味での五十肩は凍結肩(frozen shoulder)・癒着性関節包炎(adhesive capsulitis)、実際の五十肩の症状は、ほぼ肩関節痛+肩痛(筋肉痛)のセットです。

複雑な構造をしているが故に、症状そのものが複雑で、これらによって引き起こされる肩周辺の様々な痛み・症状まで全部含まれるため肩関節周囲炎が五十肩の保険病名になっています。

五十肩には自信を持ってよくなりますとお伝えはできるのですが、行う施術は決して簡単ではございませんし、時間・回数はどうしても必要になります。

数回ですっかり良くなってしまうケースもあれば、なかなかうまくいかないことも正直ございます。

五十肩を治してしまうか、放置するか、この選択次第で人生は変わります

五十肩は放置しても発症して1年から2年で自然と痛くなくなります。きちんと適切な処置を行えば、当院の理学療法データによれば、だいたい半年から1年でゴールします。つまり適切な処置を行えば放置した場合にくらべて約半分に期間を短く圧縮できます。

一時的な緩和方法だけして放置すれば、痛みは治まっても可動域は狭くなりますが、適切な処置を行えば発症以前と同等の可動域を取り戻せます。

腕や肩が以前のように動かせなくなるのは想像以上に不便なことです。仮に85歳まで生きると仮定して、約半分の人生に影響があるとしたら、しっかりと治してしまったほうが生活が豊かになる・・・とまではさすがに言い切れませんが、少なくとも日々の悩みは減ります。

まずは医療機関で肩関節周囲炎(五十肩)という診断をもらいましょう。

本当の意味での【肩関節周囲炎】、つまり凍結肩(frozen shoulder)・癒着性関節包炎(adhesive capsulitis)かどうかは、MRI検査が必要です。そこできちんと医師の診断をうけることは本当に大切です。ただ、最新の研究では癒着性関節包炎に癒着ではないということがわかってきたので名称が変わる可能性大です。

稀なケースとはいえ、骨や内臓の病気、または感染症等の可能性があるため必ずMRI検査を受診なさってください。

【肩関節周囲炎】の問題を解決するプログラムは医師による診断があってはじめてスタートします。

ここまでは鍼灸・マッサージをはじめとした徒手療法や運動療法などの保存療法について述べてまいりました。

稀にどうしても十分な改善効果が得られないケースがあります。

その場合、全身麻酔下による授動術(徒手的な関節包破断;マニピュレーション)・全身麻酔下による関節鏡下関節包解離術などが医療機関における選択肢となります。

とはいえ、これらは入院が必要であったり保険がきかず費用が高額であったりと“最後の手段”とされているというのが現実です。このような中、最近では手術が必要とされる症例に対してサイレント・マニピュレーション(神経ブロック下授動術)が行われています。

当院では、肩の痛みをすぐにでもなんとかしたい方向けにサイレントマニピュレーションではなく「運動器カテーテル」を推奨しています。ただしケースバイケースです。サイレント・マニピュレーションと運動器カテーテルについては次の記事で紹介します。

【最新医療】五十肩の治療法の1つ「サイレント・マニピュレーション」 ~五十肩の痛みに耐えられない方に知っておいてもらいたいこと

肩が痛い!腕が上げられない!!もしかして五十肩!?肩関節痛でお困りの方が知っておくべき知識

 

 

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執筆者:丸山 太地
Taichi Maruyama

日本大学文理学部
体育学科卒業 東京医療専門学校 鍼灸マッサージ科卒業
上海中医薬大学医学部 解剖学実習履修
日本大学医学部/千葉大学医学部 解剖学実習履修

鍼師/灸師/按摩マッサージ指圧師
厚生労働省認定 臨床実習指導者
中学高校保健体育教員免許

病院で「異常がない」といわれても「痛み」や「不調」にお悩みの方は少なくありません。
何事にも理由があります。
「なぜ」をひとつひとつ掘り下げて、探り、慢性的な痛み・不調からの解放、そして負のスパイラルから脱するためのお手伝いができたらと考えております。